マーフィーの法則を知っているだろうか?これは、
  • 失敗する可能性があることは、必ず失敗する
  • 壊れた機械は修理人が来たときには直っている
等のユーモアに富んだ(半分冗談の)経験則である。そして、マーフィーの法則の一つとして、
  • バターを塗ったトーストを床に落とすと、必ずバターを塗った面が下にいく
という法則がある。これも冗談かと思いきや、実際に比較的そういう事が起こりやすい、という事が明らかになっている。その内容は、専門誌に研究論文として発表されており、実際、1995年のイグノーベル物理学賞が授けられている。 以下、その論文の結論を概説しよう。

論文の簡単な解説
以下のFigureのような状況を考える。ここで、机から床までの高さを$h$、トーストの形を直方体と仮定し、その長さを$2a$とした。また、トーストの横方向の初期速度を$V=0$と仮定する。
butter_toast
Figure: バタートースト問題の物理モデル

トーストはその重心よりはみ出して置かれた場合に、床に落下する。いま、トーストの回転角$\theta$が$90^{\circ} \leq \theta \leq 270^{\circ}$の場合、バターが塗ってある面が下になる。この条件は剛体の回転に対する運動方程式を解くことで計算でき、その結果は、 \begin{equation} \delta < \frac{1-\sqrt{1-12\alpha^2}}{6\alpha}, \ \alpha=\frac{\pi^2}{12(h/a-2)} \end{equation} と与えられる。この式に典型的な値、$h\simeq 75\text{cm}, 2a\simeq 10 \text{cm}$を代入すると、$a \delta \lesssim 3 \text{cm}$のとき、バター面が下になる事が結論される。つまり、トーストを少しはみ出して置くと、悲劇は必然的に起こる。

次に、トーストの横方向の速度が$V \ne 0$の場合を考える。このとき$V$が十分早いと、トーストは回転せずに落下するため、バター面は下にはならない。だが、それに必要な速度は$V \simeq 1.6 \text{m/s}$である。一般に、この値は大きい。すなわち、日常的に問題になるシチュエーションでは横方向の速度$V$に依存せず、上記議論の成立が結論される。

まとめ
実は、今述べた内容よりも詳細な研究が行われている。実際は、トーストのはみ出し距離によって、必ずしもバター面が下にならない。つまり、はみ出し距離が少し大きくなるとバター面が上になり、更にはみ出すとバター面が再び下になる。これらの挙動の正当性は実験的に確認されている。
重要な事はトーストの挙動は力学的な方程式から予測可能で、現実の挙動もその理論に従うということである。

参考文献
・J. Walker, The flying circus of physics, (John Wiley & Sons,  2008).
・R. A. J. Matthews, Euro. J. Phys, 16, 172 (1995).
・M. E. Bacon, G. Heard, and M. James,  Am. J. Phys. 69, 38 (2001).