紙を繰り返し半分に折り、計$n$回半分に折ると、その厚さは初期の厚さに比べて$2^n$倍になる。これは指数関数的に増大する現象の例として有名であり、例えば$n=25$回程度折ると計算上は富士山の標高程度になる。だが、実際に身の回りの紙で試すとすぐ分かるように、6回目までは何とか折れるものの、7回目を折るのはとても難しい。実際、『どんな大きさの紙を用いても7回(8回の場合もある)しか折ることができない』と俗説として言われることがある。

そこで興味があるのは、この回数の実験的な限界は?、またその限界を支配する数理的な根拠は何か?である。この問題は単純だが意外性を持つため、実験・理論について世界中で調べられてきた経緯がある。今回は、それらの知見を簡単にまとめ、紹介する。

回数の限界に関する実験結果
まず、できるだけ大きく薄い紙を使えば7回(or 8回)の限界を超えることができるのではないか?と容易に予想できるだろう。実際、とても大きい紙を用意してその限界を実験的に確かめたグループが世界中に存在する。それらは動画映えするため、テレビ番組等の企画として実施されている。

ただし、それらの実験結果を説明する前に、紙を半分に折り続ける方法には、次の1次元折り、後者を2次元折り2通りあることに注意しよう。
  1. トイレットペーパーのように細長い紙を同一の1方向に折り続ける方法(1次元折り
  2. 正方形やその形に近い長方形の紙を、縦・横・縦と交互に折っていく方法(2次元折り
以降、前者を1次元折り、後者を2次元折りと呼び、これらを分けて議論する。

まず、1次元折りについては、2002年にアメリカのBritney Gallivanが1200mの長さのトイレットペーパーを用いて12回折りたたんだという記録がある。この記録は公式なギネス記録として認定されている[1]。その後、BBCのテレビ番組で13回折りを3000mの長さの紙を用いて達成した記録が紹介されており、その動画はYoutubeで確認できる[2]。

次に、2次元折りについては、公式な記録が見当たらないが、恐らくディスカバリーチャンネルのMyth bustersという番組で検証された11回という記録が最大回数である。このときは、紙を両面テープで張り合わせて約$50 \times 70$mの形状にして(これはサッカースタジアムの球場程度)、NASAの航空機用の格納庫で実験が行われた。これもyoutube上に動画が残っている[3]。


回数の限界に関する数理モデル 
次に、折りたたみ回数の限界を決める数理モデルについて説明しよう。 Britney Gallivan(先に紹介したGuinness記録を獲得した人物)は、1次元折りに関して$n$回折るために必要な長さ$L_n$を導いた[1, 4]。 彼女が着目したのは、紙を折ったとき両端にできる折り込み部分を更に折れないと仮定すると、その部分がロスになるということである。つまり$n$回目に半分に折れるためにはFig.1の黒い部分が残っている必要があると考える。
folding_paper_1
Fig.1 細長い紙を1次元折りで4回折りたたんだ状況。赤い折込み部分は、更に折ることができないと仮定する。その場合、$n$回折れるためには、黒い部分の紙が残っている必要がある。

この仮定が正しければ、$n$回折れるために必要な長さ$L_n$は、紙の厚さを$t$として、
\begin{equation} \begin{split} L_{n} &= \pi t \Big[ 1+(1+2)+ (1+2+3+4)+ \cdots + \sum_{k=1}^{2^{n-1}} k \Big] \\ &= \pi t \sum_{i=0}^{n-1} \sum_{k=1}^{2^i} k = \frac{\pi t}{6}(2^n+4)(2^n-1) \end{split} \end{equation}
と計算される。 特に$t=0.1$mmの場合、$n$回折るために必要な長さ$L_n$は表1となる。
表1 1次元折りで$n$回折るために必要な長さ$L_n$
$n$ 6 7 8 9 10
$L_n$ $22$cm $88$cm $3.5$m $14$m $55$m

また、2次元折りの場合に必要な紙の長さも同様に導ける。特に、一辺の長さ$W$の正方形の紙に対して折りたたむ場合、折れる回数$n$は必ず偶数であり、それに必要な長さ$W_n$は
\begin{equation} W_{n} = \pi t \cdot \frac{2^{3n/2}-1}{7} \end{equation}
と求まる。この式の導出はAppendix参照。 特に$t=0.1$mmの場合、$n$回折るために必要な長さ$W_n$は表2となる。
表2 正方形を2次元折りで$n$回折るために必要な長さ$W_n$
$n$ 6 8 10 12
$W_n$ $2.3$cm $18$cm $1.5$m $12$m


何故両端を折ることはできないのか?(折り込むために必要な力)
以上がBritney Gallivanによる数理モデルだが、この議論には『一度折りたたんだ両端を再び折れない』事を前提としている。 だが、例えば、Fig.2 のように両端の位置が一致するように折っていく場合、両端の折り返し部を再び折る事ができれば、上記で述べた限界を超えて更に多く折れるはずである。 そのため『一度折りたたんだ両端を折れない』という仮定の妥当性を議論する必要がある。
folding_paper_2
Fig.2 両端をあわせながら1次元折りする方法。青部がFig.1との差異。

この仮定が妥当であることは、両端部を折るために必要な力を考えれば理解できる。 まず、折り込む際に両端部の影響が十分小さければ(Fig.2の黒領域が赤領域の長さよりも十分ながければ)、$n$回目に折るときに必要な曲げ弾性力$P_n$は、紙一枚を折るのに必要な弾性力$P$の$2^{n-1}$倍、すなわち$P_n \simeq 2^{n-1} P$と単に見積もれる。

次に、紙が十分厚くなり、赤の折り込み部の影響が重要な状況を考えよう。この場合、更に半分に折るためには、積層された$2^{n-1}$紙同士が水平方向にスライドさせる必要がある。これは、半分に折ろうとすると、$2^{n-1}$の紙の最上部と最下部が端部でロスする長さ($n$回目の折り込み時に新しく生まれる赤領域の長さ)が大きく異なるためである。 すなわち、更に紙を折り込むためには曲げ弾性力だけでなく、$2^{n-1}$枚間をスライドさせるために必要な摩擦力も要求される。

以上の議論より、このとき$P_n$は、$2^{n-1}$の紙を一枚の弾性体の板と見なし、それを曲げる際に必要な力と捉えられる。一般に、板の曲げ弾性率は厚さの3乗に比例する事が知られているから、$P_n$は$P_n \simeq 8^{n-1} P$と見積もられる。つまり、$n$が1増えるだけで、曲げ弾性力$P_n$は8倍も増加する。従って、両端を折ろうとすると非常に大きな力が必要であり、そのため『一度折りたたんだ両端を再び折れない』という仮定を置く事に合理性がある事が分かる。 

まとめ
紙を半分位折れる回数の限界について、実験結果とその理論についてまとめた。特に理論は必要条件のみを示しており、理想的な状況でできない実際の実験では、上記の$L_n, W_n$よりも余裕を持つ必要があるだろう。

Appendix:2次元折りの場合の理論式
簡単のために一辺長さ$W$の正方形を折っていく状況を考え、縦、横、縦という順で折っていくとする。このとき、$n$回目に折ったときの縦方向の長さ$W_n$は、
\begin{eqnarray} &n \text{が奇数のとき}: W_{n} =\frac{1}{2}(W_{n-2}- \pi t \cdot 2^{n-1}) \\ &n \text{が偶数のとき}: W_{n} = W_{n-1} \end{eqnarray}
という漸化式が成立する。この式を解くと、
\begin{equation} n \text{が奇数のとき}: W_{n} =\frac{1}{2^{(n+1)/2}} \big(W- \pi t \cdot \frac{2^{3(n+1)/2}-1}{7} \big) \end{equation}
となる。よって、$W_n$が正になる条件として、
\begin{equation} n \text{が奇数のとき}: W \geq \pi t \cdot \frac{2^{3(n+1)/2}-1}{7} \end{equation}
を得る。ちなみに、正方形の紙を用いたこの数理モデルでは、奇数回折れるとその次は必ず折れる。従って、折れる回数の限界は必ず偶数回となる。

参考文献
[1] Guinness World Record: Most times to fold a piece of paper
[2] Youtube: Paper folding World Record
[3] Youtube: MythBusters- Folding Paper Seven plus times
[4] Gaurish Korpal, At Right Angles 4. 20 (2015).